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ラグスコディーラーパラレルです。


【Black Or Red?】04











「暇なのか、アンタ」

翌日、スコールがクラウドに宥め賺されてカジノに向かったのは一晩中Black Or Redをやり続けた徹夜明けだった。
自分自身、負けた事にもショックを受けていたし、あの得体の知れない男を忘れたかったというのに、その男――ラグナは、またしてもカジノにやってきた。

「今日はお仕事だぜ、スコール」

「レオンだ。此処でその名前を呼ぶな」

吐き捨てる様に告げると、ラグナは変わらぬ人好きのする笑みを浮かべて肩を竦めた。
煌びやかに着飾った女たちが幾人か、こちらを見ていたのに気付いて、スコールは――レオンとして、サッと顔を作った。営業用だ。

「用が無いなら此処には来ないでくれ。俺はアンタに買われるオンナじゃない」

「やれやれ、つれねぇのな」

肩を竦めた男の表情が僅かに曇るのをスコールは見ぬふりをした。そこに隠れている真意を、読み取りたいとも思わなかったのだ。
ただ、平穏である今の自分の生活をこの男が突き崩して行ってしまうような気がしたのだ。

男が背を向けて、側近らしい男と姿を消すのをぼんやりと眺めながら、スコールはそれを、何となく見覚えがあるような気がしていた。







彼はこの歓楽街に来て、6年程になる。何処の国でも諍いは絶えず、孤児は多かった。
レオンも同じで、気付けば両親は居なかった。時には食べ物を盗み、またある時は教会の隅で雨をしのいで生きてきた。
そんな時に出会ったのが、セッツァーの親友で、エドガーという男だった。

子供だからと仕事も貰えず、盗みやスリを繰り返していたレオンが最後に盗んだのが、エドガーの財布だったのだ。
そうするしか生き延びる術を見つけられなかったレオンに食べ物と服を与えて、エドガーはセッツァーの元に連れていった。

最初は掃除の仕事を任された。そうして、仕事を任される間に色々な事を覚えた。
その間に、プライベートルームで見つけた――誰かが忘れていったカードを見つけて、レオンは随分昔に自分もそれに触れていた事を思い出したのだ。

『レオン、どうした?』

『……俺、これ、見た事あります』

『へぇ、何処でだ?』

煙草を吸いに来ていたセッツァーが愉しげにその手を覗きこむ。幼い、小さな手は掃除で荒れていたけれど、しっかりとした手つきでカードを切る。
その様子に僅かに目を瞠ると、彼の傍らから顔を覗かせたセリスが口元を引き上げた。

『そう、レオン。それなら、私とやってみない?』

『でも俺、ブラックジャックと、あとポーカーなら少し……他は知らないです』

面白い事になったな、とセッツァーも笑みを浮かべて、その様子を眺めていた。

『良いわよ。じゃあBJね、レオンが勝ったらロッソ・アンティーコのケーキを買ってあげるわ』

ふふ、と笑みを浮かべたセリスはレオンの頭を撫でながらそう囁いた。セッツァーが、思わずといった様子で口を挟む。

『セリス、レオン相手にイカサマなんてしてやるなよ?』

『エドガーじゃ無いんだから』

そう笑ったセリスは簡易テーブルの上にカードを置いた。
一枚、二枚と彼の前に伏せて置くと、彼は暫く首を傾けてそれを眺めてから、珍しく年相応に幼い顔で、笑って見せた。

『…じゃあ俺、苺のタルトが良いです』

『なぁに、レオン。気が早いわね』

せっかちな男は女の子にモテないわよ、と茶化したセリスに、レオンは首を振る。手元のカードを引き寄せてそれを捲ると、数字とマークを確認する。

『俺は、ここでSTAND』

『…』

スプレッドから一枚のカードを引くと、セリスは、そこで手を停めた。

『21よ。レオンは?』

『BJ』

ひらりとカードを捲ってテーブルの上に置いて、レオンはそう告げた。表に返されたカードはスペードのエースとジャック。
それを見た瞬間、セリスは息を飲んだ。ひゅう、とセッツァーが口笛を吹いて、灰皿に煙草を押し付ける。

『やぁね、レオン。そんなにケーキが食べたかったの?』

『……はい。』

もう一戦、とセリスがカードに手を伸ばしたのを、セッツァーは止めなかった。
もうレオンは仕事を終えて良い時間で、子供に夜更かしはさせたくないといつもなら言うのだけれど、どうしてもレオンのカードが偶然に思えなかったのだ。

二戦、三戦、…と繰り返す内に、セリスの顔色が変わった。レオンは、まるで"見えている"かのようにカードを扱うのだ。
見かねたセッツァーがもう一戦をと言いかけたセリスの肩を掴んだ。

『セリス、もういい。これ以上やったらレオンがメシ食わなくなるだろ』

『……驚いたわ。レオン、強いのね』

席を立ったセリスの代わりに椅子に座ったのはセッツァーだった。

『レオン、Black Or Redって知ってるか?』

『いえ、知らないです』

何、と首を傾げたレオンに、セッツァーはそれまで使っていたカードを揃えてケースに仕舞い、自分のコートのポケットから愛用のカードを出した。
古くから持ち歩き、ギャンブラーとして生き始めた頃から使っている、古びたものだが、大事にされているのだろう、痛みは少なかった。

『簡単だ、カードの山から一枚ずつ取って、それが赤か黒かを当てるだけだ。やってみな』

よく切ってスプレッドにした物から、一枚を取って、レオンの前に置いた。その手元を、じっとセリスは見つめている。
暫くの間、じっとカードの裏面を見つめていた彼が口を開いた。

『……黒』

そっとそのカードを捲ると、果たして、カードはクラブのジャックだった。

『次だ』

セッツァーは気にした様子も無く、次のカードをレオンの目の前に置いて行く。
そうして、スプレッドと、レオンが言い当てたカードの山がほぼ同じくらいになるまでBorRを繰り返してから、セッツァーは目を細めた。

『お前は……カードが視えてるみたいだな』

『……判んないんだけど…何となく、判る様な気がする』

『やれやれ、なら俺と勝負するか?』

言っておくが、俺はセリスより強いぜ、とカードを切る。スプレッドにした山からお互いに五枚ずつ分けて、カードを捲った。

『……セッツァーは、視えないのか?』

『視える訳ねぇだろうがよ。そんなん視えるなら今日のレオンのパンツの色だって当ててやんよ』

肩を竦めたセッツァーの軽口に、レオンは笑った。此処で暮らす内に、下世話な冗談にも慣れた。
レオンは一枚だけ、とカードを捨てて、新しいそれを取った。

『…フルハウス』

『俺はフォーカードだ。お前、セリスにカード台教えて貰え』

『え?』

テーブルに腰を預けたままのセリスが立ち上がって、レオンの傍らに寄る。

『セリス、レオンの採寸しとくように言っておけ』

『了解』

『しっかり働けよ、レオン』

くしゃくしゃと、子供にするように頭を撫でてから、三本目の煙草に火を付けたセッツァーがプライベートルームを出ていくのを、呆然とレオンは見送っていた。







スコールが歓楽街に来た時にレオンと名乗ったのは、名前を忘れたからでは無かった。
ただ、両親がつけた名前は、いつの間にか遠く失くしてしまった宝物の様で、今の自分には名乗る資格など無いと思っていたからだ。

顔も思い出せない両親と、何故分かたれてしまったのか、それすらもスコールには思い出せなかった。
そして、生きていくためにはそうするしか術を見つけられなかったとはいえ、卑劣な手で日々の糧を得ていた自分には本来の名前を名乗る資格は無かった。

たった一度だけ、セッツァーに、家族の事を聞かれた事があった。覚えてはいないのか、と。
スコールは緩やかに首を振って、自分がスコール・レオンハートという名前の人間であった事しか思い出せないのだと告げた。
何処で生まれたのか、何処で、どんな両親に育てられていたのかも思い出せなかった。

それが、この歓楽街随一の魔術師と呼ばれるスコールの素性である。



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