無差別パラレル浪漫荘13
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アレンがラビを殴り飛ばしてから数時間が経った頃、エドワードはアパートの近所の公園にきていた。まだ夕方ということもあって、遊具には沢山の小さな子供たちの姿が見える。エドワードはそれを、ベンチに腰をかけながらぼんやりと眺めていた。
繰り返し思い出されるのは昼休みのアレンだ。エドワードの制止も振り切ってアレンはまっすぐに廊下を駆け抜けて行ってしまった。先程神田から返信メールが届いたが、なんとなく見る気になれなくて、そのまま放置している。彼らがどうなったのか、もはやどうでもいいとすら感じている自分が信じられなかった。自分はこんなにも薄情な人間だったのか、と。
「なんでそんなに冷めてるの、か……」
もう何度言われたか知れない言葉だ。冷たい、酷い、心がないのかとすら言われたこともある。感情が乏しい訳では決してない。エドワードだって人並みにうれしいと感じるし、腹立たしく感じることもある。鋭い言葉を向けられて傷つかない程無感情ではないのに、それでもふとした瞬間にお前は冷たいと言われる。
自分でもどうしてそうなのかわからない。自分がこうしてロイのもとに身を寄せているのだって、もとを辿ればその性質が原因となっているというのに。

「……結局オレは、」
オレだけが、なんも成長してないって話か。





「それで? ラビ。君はこれからどうするって?」
盛大に腫れた頬に氷嚢を当て冷やすラビに、ゆっくりとコーヒーを淹れながらロイが尋ねる。
「……とりあえず、足を洗う」
「危険性は?」
「一応変装してたし、顔も見られてないから……偽名使ってたし。そっち用の携帯解約すれば、大丈夫だと思うさ。全部アパートからも学校からも遠いとこでやってたし……」
「つまりバックレか」
「殺されっかなあ。ディーラーつっても、下っ端のオレは単に運び人って感じだったんだけどさ。ま、ここで死んだらそれまでってことか」
ぐしゃりと髪を掻き上げ思案顔のロイだったが、「まあ、何かあれば私が君を守ろう」と言って、ラビと――テーブルに肘をついて、明らかに不満げに唇を歪めるアレンの前にコーヒーの入ったマグカップを置く。ラビはそんなアレンを見て、苦笑するしかない。
「もう怒んなよ、アレン。ちゃんと健全な仕事探すからさ」
「……怒ってませんよ。もう僕の気持ちはわかってくれただろうから、これ以上ラビにとやかく言う気もありません。……後は、僕自身の問題なんです。だから気にしないで」
今度こそラビは真っ当に働いてくれるだろうことはアレンの中で疑いようもなく、それならばわざわざ口やかましく指図する必要もない。いまだアレンの中で燻っているのは一度終わった話にも関わらず、もやもやとして、自分自身に対する不甲斐なさだとか、後悔だとか、そういったやり場のない感情だ。だからこそこれはアレン自身がひとりで解決しなければいけないものだった。
「でも、新しい仕事が決まったら、今度はちゃんと教えてくださいね?」
「うん、約束するさ」
ラビが差し出した小指にアレンも同じように小指を絡め、ふたりで「ゆーびきーりげーんまーん!」と揃って歌い出す。それを微笑ましく思いながら、何かを忘れているような、とロイは首を傾げる。
「……そういえば、鋼の、遅くないか」
「……ん?」
三人同時に壁にかけられた時計に目をやれば、普段ならとっくに学校から帰宅している時間だ。アレンは昼休み以降サボってしまった形になるが、もしエドワードが最後まで授業に出席したとしても、帰ってこないのは少しおかしい。
「もしかして、僕が……エドを、傷つけるようなこと、言っちゃったから……?」
「何言ったんさ、アレン」
「……ラビがやってるバイトのこと教えてもらって、そしたら……エドが自業自得だって言って。僕は、冷たすぎるって言っちゃって……エド、すごく傷ついた顔してた、」
いつだって快活なエドワードのあんな顔を、アレンは見たことがなかった。困惑に揺らいだ瞳には、今思い返せばはっきりと、悲痛の色が浮かんでいたのだ。アレンは自分のことに手一杯で、そのことに気づくことができなかった。
「それは禁句だったな」
「どういうことです?」
「鋼のは……まあ、私から話してしまっていいことでもないから省くが、とにかくそういう、冷たいだとか言われると、人より気にしてしまうというか……」
「それはもしかして、赤の他人のエドが、ロイと一緒に暮らしてるっていう理由にも関わったりすんの?」
「きみは相変わらず鋭い」
ラビの問いはそのまま答になる程のものではなかったが、確かにそのとおりだとロイは頷く。昔からエドワードはこの手の話題を避けていた節があり、ラビとアレンが以前尋ねたときもちょっと理由があって、としかエドワードは答えなかった。それ以来、彼にとって訊かれたくない事柄ならば、いつか話してくれるまで自分たちも余計な詮索はしないようにと務めてきたのだ。
「僕、迎えに行く」
「待てってアレン、今連絡してみるから」
「いや、いい」携帯を取り出してエドワードに電話をかけようとするラビをロイが止める。「あの子が家に帰ってこれないとき、どこにいるか知ってるからな。私が迎えに行こう」
随分久しぶりだなと呟いたロイの声には、少々の呆れも含まれていたようにアレンとラビは感じた。





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