リボツナへの3つの恋のお題:あれはなかったことにして欲しい/食べてしまいたい/見える位置に残された痕 http://shindanmaker.com/125562 あれはなかったことにして欲しい 「ちょっと待てって!」 ひんやりとした冷気が足を伝い背筋まで這い上がっていく。 ムダに広い階段を下るとそこには大理石が詰められている大広間が見えた。 今では制服のように板についた黒い背広をだらしなく着崩したまま、慌てて伸ばした手の先でやっと相手の背広の裾を掴んだ。 「……お前超能力でも使えるんじゃないの?!」 報告書を受け取ったのは30分ほど前の話だ。 しかしそれからすぐに細かい報告と、いつものオレへのからかいをそれと同じだけ繰り広げたのは他ならぬリボーンで。 つまりは執務室からここに至るまで2分と経ってはいない。 袖の下で時を刻む腕時計の秒針は、今、ようやく2週目を回ったところなのだ。 警護のためというより、古くから使われている城のような屋敷は迷路のようなもので、この大広間へと最短でも5~6分はかかるである。 テレポーテーションなどという非科学的な単語を頭に思い浮かべながら、けれどもこいつならば『あり』かとも頷く自分がいた。 存在自体がオカルトともいえるリボーンは、アルコバレーノの呪いから逃れて10年を過ぎたばかりだというのにどう見てもオレより少し年若く見える程度だ。 おかしいだろう。 並ぶとクラスメイトのようだと笑った獄寺くんに、銃口を向けたリボーンの横で顔を引き攣らせた理由は言いたくない。 誰が学生だ、誰が。 それはともかく。 こうしてリボーンをどうにか掴まえることに成功したオレは、握り締めたジャケットの裾を手繰り寄せながら顔を上げた。 「あれ?お前、また背が伸びた?」 成長期なのだから当然とはいえ、見上げる角度が以前より増したことに目を瞠る。 獄寺くんも、山本も、骸や雲雀さんさえにょきにょきと育っていったというのに、オレは随分と小幅な成長で打ち止めとなってしまっただけにまたも置いて行かれたようでショックだ。 情けなく眉を寄せていると、リボーンはそんなオレを見て肩を竦めてみせる。 その仕草がひどく様になってきていることにも気付いた。 「その内ディーノさんも追い越すんじゃないの?」 つい先日獄寺くんより高くなっていたことに驚いたばかりなのだ。ということは必然的に山本と変わりない身長にまで育ったということでもある。 まあ、いくらなんでもそこまで伸びないだろうと思いつつも、どんな返事をするのかとリボーンの様子を伺ってみた。 オレを振り返る肩越しに呆れた表情を浮かべてリボーンは口を開く。 「ああ、あいつよりはもう少し伸びるぞ。コロネロとそう変わらなかったからな」 まるで己がどこまで成長するのかを知っているようなリボーンの口ぶりに思わず乾いた笑いが漏れる。 「あー、はいはい。リボーンはイケメンで高身長でいいよね。これで性格も温和だったらオレ本当に幸せなんだけど」 出会った頃から変わらぬ自信過剰なセンセイにそう返せば、リボーンは性質の悪い表情を浮かべてオレの顎を引き寄せた。 「全部『イイ』男なんてつまらねぇだろ。少しばかり悪くてお茶目でカッコイイ、そんなオレがツナはいいんだよな?」 どこが少しばかりだ。お前の中身は真黒だろうと言い掛けて、リボーンのニヤニヤ笑いの裏側に気付いて引き戻された。 やはり完璧に先ほどのオレの発言を誤解している。いや、曲解する気らしい。 しばらくはこのネタでからかわれるんだろうと内心で漏らしたため息を飲み込みながら口を開く。 「……あのさ、それ、獄寺くんやみんなの前で言うなよ」 「それ?どれのことだ?」 言わなくても分かるくせに。毎度のこととはいえ腹が立ったオレは随分と上を向かなければならなくなったすまし顔を睨んだ。 それを見てリボーンはクツクツと笑う。 「いつまで経っても変わらない面しやがって……っと、あれか?『いい男っていうなら、リボーンかな』だったよな」 「その前に『性格はハチャメチャだからあくまで外見だけなら』っていう前置きもあったんだけどな!」 オレの言葉に肩を竦めたリボーンには、オレの真意はちっとも伝わっていないことが見て取れた。 「照れるな。平気だぞ、言われ慣れてるからな」 「だから……っ!」 出会ってから10年もの年月を共に過ごしてきたけれど、一度としてこいつに口で勝てたためしがない。 ちなみに身体が鈍らないためという名目の元(強制的に)行われている修行でも、いまだにリボーンに勝てた試しがない。 機動性は負けてないのに、防御予測と攻撃手段の手持ちのあるなしの違いは大きい。 負けっぱなしで悔しいと思うより、もういいやという諦めが勝ってきた。 習慣とは恐ろしい。 それでも先ほどの誤解を曲解されて吹聴されてはたまらないからと、もう一度目に力を入れて口を開けば、何かに視界を遮られた上に唇にムニッという柔らかいものを押し付けられた。 「……」 塞がれた視界が開けるまで、10分以上かかった気もするし、1分もかかっていなかったかもしれない。 ともかく眼前に見えるのはリボーンのふてぶてしいまでの笑顔だけだ。 何をされたのかなんて改めて問うまでもないが、とりあえず確認はしておいた方がいいだろう。 「目的は何なんだよ!」 どんな無茶・無謀・無計画に巻き込まれるのかと、半ば達観の境地でリボーンの目を覗き込む。 「目的だと?そんなもんある訳ねぇだろ。そうだな……強いて言やあ、そこまでオレに惚れてるなんて知らなかったからな。期待に応えてやったんだぞ」 「イヤイヤイヤイヤ!!」 顎を掴まれたままだったことに気付いて、リボーンの手を振り払う。 ともかくこの距離は頂けない。というか、どこまで本気なんだ。 咄嗟に後ろに下がろうとするも、今度はリボーンの腕が背後に回ってきた。 「つれねぇな、ツナ。この歳になるまでオレのために操を守り通してきたってのに」 「ちがっ!誰が!!」 こんなことを言う意味が分からない。 からかうにしては性質が悪すぎるし、リボーン本人も気持ち悪いだろうに。 抱き込まれそうになって焦って手を突っ撥ねるも、どこまで本気でどんな裏があるのか分からないから力が緩む。 「そうか……だから24にもなっても童貞なんだな」 「だから違うし!」 そこで納得されたら立つ瀬がないというものだ。 いまだに経験のないことを一番知られたくなかったリボーンに知られて狼狽えた。 「オ、オレだってセッ……したことあるんだからな!」 我ながら説得力のない赤い顔で叫ぶと、リボーンは頷きながら腰に回した手を狭めた。 「そういうのはな、きちんと言えてからにしろ。まあいい。今から初体験だ」 「は……?」 「赤飯でお祝いしてやるからな」 意味不明な言葉を呟いたリボーンに引き摺られながら、あれよと言う間に人気のない部屋へと連れ込まれる。 どうなったのかはリボーンに押し切られたと言えば、分かるだろうか。 食べてしまいたい に続く |
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