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『涙』


仙台で別れを告げた筈の千鶴が、大鳥さんの手を借りて、
海を越えた北の地に俺を追いかけてきた。
はじめは、辞令だといわれようとも、受け入れる気なんてなかった。
仙台で決めたのだ。
これ以上千鶴を辛い目に遭わせない為に、
そして、千鶴を死なせない為に、幸せになれと突き放そうと。

正直言えば、千鶴がいない日々は何か大事なものが欠けたような喪失感と息苦しさ。
何より突き放した俺自身が千鶴が恋しかった。
だからといって、このまま千鶴を受け入れていいものか。
千鶴の真っ直ぐな想いと、逢えてなかった三ヶ月でいやというほど
千鶴の存在の大きさを思い知ったからか、この腕を伸ばし小さな体を抱きすくめていた。

その次の日、大鳥さんが俺の部屋を訪れた。

「どうやら丸く収まったようだね。」

にこにこと。
千鶴は、お茶を入れると部屋を出ていた。

「もう、泣かせちゃ駄目だよ。」

大鳥さんは誰、とは言わなかった。
だが、誰のことを言っているのかわかっていた。

「わかってるよ。もうあいつを泣かせるような事は絶対しないさ。」

大鳥さんに言ったようで、自分に言い聞かせていた。
もう泣かせはしない。
あの日、背中で感じたあいつの泣き崩れる様は、もう感じたくない。
昨日、嬉しそうに愛しそうな微笑に流した綺麗な涙のように、
せめて千鶴が俺で泣くのなら、幸せな嬉し涙であればいいと思う。

「信じてるよ、土方君。」

大鳥さんがそう言った時、お茶を入れた千鶴が入ってきた。
それから、戦略的な話を雑談交えてし、
丁寧にお茶を飲み干して大鳥さんは自分の仕事へと戻っていった。

「千鶴。」

俺も執務机に向かって、大鳥さんによって中断していた仕事を再開していた。
書類に目を落としたまま、湯のみを片付けようとしているのだろう千鶴を呼び止める。
こちらを向く気配がした。

「次おまえを泣かせるとしたら嬉し涙流させてやるよ。」

自分でも何を言ってるんだろうと思ったが、さっきした
大鳥さんとの会話が自分の中に強く残っていたのか、自然とそう口にしていた。
時間が止まったような雰囲気に、まずいことを言っただろうかと千鶴を見れば、きょとんとしている。
けどすぐに広がった淡く色づいたその笑顔に、不覚にも目を奪われてしまった。




お題:選択課題・恋する台詞より「あいつを泣かせるような事は絶対しない」
お題サイト:「rewrite」様より



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