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『虹』


通り雨に降られて慌てて入ったのは、たまたま近くにあった茶屋だった。
通された席は、外の様子がよく見える席で、さっきより雨脚が強くなったようだ。
夏の京は茹だる様に暑い。
時折降る通り雨は、気温を下げてこそしてくれるが、油断していると濡れ鼠にされちまう。
幸い、本格的な降り出しになる前に凌げたおかげで、俺も千鶴も大して濡れることはなかった。

「せっかくだ、何か頼むか。」
「はい。」

茶屋に入って何も頼まないのもおかしな話。
店の女将を捕まえて一人分の団子と二人分の茶を頼んだ。
あまり外出できない千鶴にとっては、かえっていい機会かもしれない。

「土方さんは食べないんですか?」

一人分の団子は千鶴の前にある。
俺が食べないことへの遠慮なのか、千鶴はなかなか手をつけようとしない。

「俺が好んで甘いものを食うように見えるか?」
「いえ、そうではないですけど、私一人で食べるのはなんだか申し訳なくて。」
「遠慮すんな。こうでもしねえと滅多に食えねえだろ。
次に連れてこれるのはいつかわからんからな、食える時に食っとけ。」

そこまで言って千鶴は漸く笑顔を見せた。

「ありがとうございます。」

いただきますと団子を美味しそうに食べる姿は、そこらにいる町娘と変わらねえな。

「美味いか?」
「はい、おいしいです。」

殺伐とした中に身を置いている筈なのに、
今だけは穏やかな日常の中にいる錯覚に陥る。
それも、千鶴がいるせいか。
自然と自分の表情も穏やかになるのがよくわかる。
今の自分を総司が見たらなんと言うか。
絶対あいつらには見せらんねえな。

「あ、雨が上がりましたよ。」

食べ終わった千鶴の視線が、外へと向いている。
強く耳に響いていた雨音は、いつの間にか消えていて、
明るい雨上がりの日差しが注いでいた。
と、千鶴が少しその身を乗り出す。

「千鶴?」
「土方さん、虹です。」

視線を追えば、茶屋の窓から見える端に、七色の虹が見えていた。

「綺麗ですね…。」

嘆息するような千鶴の声がかけられる。
その横顔が、少女と呼ぶより大人びた女の表情に見えた。
雨上がりの独特の明るさに、晴れた青空に浮かぶ虹を見惚れたように眺めている。
何故か、その横顔を見詰めるようにしてしまう。

「土方さん、どうかしましたか?」

視線を感じたのか、答えがなかったのを不思議に思ったのか、
虹から視線を外した千鶴が首を傾げて聞いてきた。

「……いや?綺麗だなと思ってな。」

あくまで虹に見入っていたというように、千鶴を追い越し虹を見る。
おまえがな、心の中だけで最後に付け足して。

「そうですね。久々に見ました。」

にっこりと笑った時には、垣間見えた大人びた表情よりもあどけなさの方が覗いていて、
千鶴にはわからないように苦笑した。





お題:選択課題・恋する台詞より「……いや?きれいだなと思って」
お題サイト:「rewrite」様より



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